新建 文本文档_9
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イクを通しての第一声はこのようなものでした。目前の大久保翁が何も教えてくれないことに対しての皮肉も含んでおりました。
「いえいえ、何かご質問がありましたら気軽に言ってください。」
「重ね重ねありがとうございます。工藤さんは国防軍の方ですか?」
やや沈黙があり、また工藤が明るい調子で話始めました。
「いえ。単なるヘリのパイロットです。」
「そうですか。」
何か聞いてはいけないことをいきなり訪ねてしまったような後ろめたさがございました。すると岩にように口を閉じていた大久保翁が、
「実験の生き残りじゃよ。」
「実験?」
「お主も巻き込まれた軍部の実験じゃ。たしかレインボーとか言ったかの。」
「そうなんですか工藤さん?」
先ほどよりも長い沈黙があり、
「私はNO108地区の担当でした。カラーはインディゴでした。」
「インディゴ???」シャネル 2013 バッグ
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私は、記憶にある坂本の記事からそれが何を示しているのか思い出そうといたしました。そこで大久保翁がニヤリとほほ笑み、私の横を指さしたのでございます。
「ほれ、助手席の袋を開けてみ」
指の先にある布袋を見つめました。動いております。袋の中に何かがいるのです。
「ゾンビの腕じゃない?さわっちょ、トモ。」
妻が怯えた表情で私の袖を引きます。大久保翁は意地の悪い笑みを浮かべたままです。

 私は何かなめられているような気持ちがいたしました。
これでも散々修羅場を潜り抜けているのです。今更ゾンビの切り取られた腕などに恐怖を抱くことなどありません。ただ怯えて潜んでいた生存

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二話連続で更新しております。ご注意ください。
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17:道筋


僕はアリアリア様を探していた。
彼女に聞いてもらいたい話と、一つ頼み事があったからだ。

アリアリア様は普段、あの箱の中で寝起きして、この館をふらふら浮遊してはあっちこっちで現れたり消えたりする。なかなかとらえどころの無い魔獣だ。
まさに蝶のように、ひらひらふらふらと……


「アリアリア様〜……」


おやつの時間にも現れなかったので、どこに居るんだろうと探してみる。
ディカが果実が好きなら、アリアリア様は蜜が好きな様で、何にでもハチミツやメープルシロップをかけようとする。
流石は蝶。

僕はハチミツクッキーを片手に持ち、それを餌に館をうろうろしては、彼女を捜していた。
書斎に置いてある箱の中に戻って来ているかもと、何度となく確かめに行ったが、中身は空っgucci バッグ 新作
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ぽだった。

どこに居るんだろう。

「……あいたっ」

いきなり後ろから髪を引っ張られた。
振り返ると、アリアリア様が浮遊し、僕の髪をぴんぴんと引っ張りながら「呼んだか?」と。

「あ、アリアリア様。いったいどこへ行ってしまったのかと」

「色々じゃ。あっちこっち行ったり、ちょっくら東の最果てに帰ったりしておったのじゃ!

「か、帰れるんですか、そんなすぐに」

「勿論じゃ。あの箱は東の最果てと繋がっておる。とは言え、一回帰るのに結構魔力を使うから、そう頻繁にと言う訳じゃ無いがなぁ……。ああ、肩凝ったのじゃ〜湯船で熱燗ぐいっとかましたいのう」

「……」

ちっさくて愛らしい少女の姿なのに、言う事が年寄り臭すぎる……と思った事を、僕は口にしない。

アリアリア様は僕が持っていたクッキーを見つけた。とたんにキラキラした瞳になる。
どんなに長生きなお局様でもこう言う表情をされるととても可愛いのだが……

僕はそのクッキーを彼女の目の前でちらつかせながら、彼女を僕の書斎まで誘導した。





ベルルが少し前に用意した、アリアリア様の為のティーカップがある。
アンティークドール用の小さく洒落た陶器のもので、僕はその手のひらサイズのティーカップに懸命に茶を注いだものだ。

「どうぞ」

「うむ。なかなか気の効く男じゃな」

「……」

完全に上から目線で褒められた。しかし悪い印象を持たれるよりずっと良い。
何と言うか、アリアリア様はローク様以上に、怒らせてはいけない存在の様な気がしていた。

「で、何の用じゃ。銀河病の特効薬の開発に、進展でもあったのか?」

「……はい。その、どこから探っていけば良いのか、方向性は見えて来たと言うか」

「ほお、聞かせておくれ」

お茶の時間を少し過ぎた昼下がりの静かな書斎で、僕は少しだけ考えをまとめた後、アリアリア様に一つ見えて来た道筋を語り始めた。

「……魔獣の“穢れ”は、死ぬ事で残る思念や憎悪のもので、銀河病は呪いだ、と言う仮定で話をします。そもそもその呪いをどうするのかという部分で、手段は二手。一つは、呪いの魔法式をゆっくり解いて行く、“解呪”の魔法です。もう一つは呪いの魔法式を何かしらの術で破壊し打ち破る、“破呪”の魔法です」

「……その二手は、同じ様で全く違うのぉ」

「はい」

アリアリア様は小さなティーカップからお茶を飲んで、ホッと一息。
そしてその大きな緑色の瞳を僕に向けた。

「リノフリード、お前はどちらが良いと思っておるのじゃ?」

「……僕は、どちらかと言えば、“解呪”の方法をとるべきではと思っています。最近では呪いを打ち破る“破呪”のほうが、手っ取り早いのでスタンダードとなりつつありますが、それでは何と言うか……結局魔獣たちはうかばれないんじゃないかと」

「うかばれる? お前、銀河病をそんな観点で探っているのか?」

アリアリア様は驚いた表情をして、お茶を飲む手を止めた。
じっと僕を見つめて、何やら考え込んでいる。

僕もそうだ。ずっとずっと考えている。
病だと言う考え方では、きっと解決出来ない。

これは呪いであり、呪いは魔法式だ。銀河病に訴えかける部分があるとすれば、体内で呪いの魔法式を解き、そして……

「僕は、銀河病の特効薬に、三つの魔法が必要なのでは、と考えています」

「と言うと?」

「基礎となるのは、魔獣たちの傷を癒す“約束薬”になります。それに、解呪の魔法式を組み込むのです」

「魔獣を癒す……じゃと?」

「ええ。ローヴァイの日記にあった“約束薬”は、魔獣の外傷などを癒すものでしたが、結局は一時的な契約のもと主の魔力に触れる事で癒されるという、魔獣の特性に訴えかけている薬です。銀河病の原因が魔獣の思念や憎悪だと言うなら、それを癒す事が出来るのも、結局はこの“特性”の部分かと……」

これは、ローク様と話していて、ふっと浮かんで来た考えだ。
魔獣が契約で癒されるという特性は、きっと銀河病の特効薬に関わってくるはずだ、と。

「なるほど……なるほど」

アリアリア様は二度程頷いて、ニヤリと笑う。

「凄いじゃないか。よくそんな所に気がついたな。先人たちは銀河病というものを“打ち破る”と言う考えでしか、突破口を探って来なかったと言うのに……。まさか、魔獣を癒すと言う方向からこの特効薬を作ろうとは」

「いえ、これはまだ可能性でしかありません。それに僕だって……ローヴァイの日記が無かったらこんな考え、思い浮かびませんでしたよ」

しかし、僕の考えだとこれだけではダメだ。
もう一つ段階が必要になってくる。

「最後に、命令を出す事が必要だと思っています」

「命令?」

「ええ。魔獣たちの思念を、銀河病の蝕む肉体から退く様、命令を出すのです。この場合、約束薬に使用した血液の本人の命令と言う事になるでしょう。一時的とはいえ、その者と契約下にあると言う事ですから」

「……それはそれは……あっはははは、それはお前、とんでもなく“格”のある人間で無いと、魔界の多くの銀河病患者の呪い……死んだ魔獣たちの思念に命令を下す事なんて出来ないぞ? 魔獣にだって、位があるし、ましてやお前程度の小物では無茶と言うものじゃ……っ、あはははっ」

「分かっています。だから……あなたにお願いがあったのです」

アリアリア様は腹を抱えて、足をバタバタさせ笑い転げていた。
確かにアリアリア様から見たらちっぽけな存在だろうけれども、小物は無いんじゃないかな?
僕は強く彼女を見つめ、ここから先の、大事な話をした。

「試験用に作る程度であれば、僕もキュービック・ガーデンの力を借りて出来ない事もないのではと思っていますが、今後魔界で処方していく薬となると……やはり、それなりに魔力があり、死んだ魔獣にも生きた魔獣にも、“命令”の出来る魔力と格、影響力をもつ人間の血液が必要になります。……僕はそれが出来るのは、東の最果ての魔王様か、次期魔王となる可能性のあるテオルさんしか居ないのでは、と考えているのです」

「……」

少しの沈黙が続き、僕は何とも冷や汗をかきながらティーカップを持ってお茶を飲んだ。
小さな虫みたいな女の子を前にこの緊張感。情けない。

「……プッ」

アリアリア様はまた笑った。

「な、なぜ笑ったんですか? 僕の話におかしな所がありましたか?」

「いや〜すまない。そう言う訳じゃ無いのじゃ。お前はよく考えた。それは、確かに一番可能性のありそうな道筋じゃの。ただ、お前は一つだけ勘違いしておる」

「……?」

「現魔王にそれほどの影響力は無い。奴は小物じゃ」

「……」

仮にも現魔王なのに、この言われよう。僕も現魔王も、アリアリア様から見たら小物ってことか。

いや僕だって、本命は現魔王じゃなかったですけど……
と、これまた失礼な事を考えてしまった。

「やはり、テオルさんが有力でしょうか」

「じゃろうな……。テオル様がこの薬の命令を下す者になるなら……そうだ、まさに、魔獣たちの王じゃないか? 魔王だ!」

「……」

アリアリア様は恍惚とした表情である。
今まで幾多の魔王の歴史を刻んで来たアリアリア様だ。
魔王と言う存在に抱く思いは、計り知れないものがあるだろう。

しかし、そうだ。
確かに、死んだ魔獣をも癒し、なお命令する存在があるならば、それは何と呼べば良いかと聞かれたら“魔王”と答える他ないだろう。

「アリアリア様……テオルさんに、話をする事は出来ないのでしょうか?」

「……しかし、テオル様は神出鬼没の身じゃ」

「現魔王様の元に、度々現れると言っていたじゃないですか。アリアリア様、出来る事なら、この僕の拙い提案を、現魔王様に伝えてはいただけないでしょうか? そして、その後テオルさんにも……」

「……そうじゃな。その方がよかろう」

僕の頼み事を、アリアリア様はすぐに受け入れてくれた。

「しかし、わかっておろうなリノフリード。お前の説は通っておるが、その薬の実物がある訳ではない。さっさと薬を完成させ、ミネを完治させてみろ。その例がなければ、テオル様は動かないじゃろう」

「……ええ、勿論です」

僕は確かに頷いた。
それは当然だ。この世に、理論的に可能な魔法は多くあれど、実際には発動する事も使用する事も出来ない魔法も星の数程ある。

その星の一つに、なってはいけない。
銀河病の特効薬として、実物を用意しなければならない。

「……だとすれば、第一関門は“青の秘術書”を取り戻す事だな……」

僕はぼやいた。
アリアリア様は聞き逃さない。

「ほお、確か分家に持っていかれたと言う?」

「そうです。解呪の魔法薬“解芳薬”というものが、グラシス家の“青の秘術書”にあったはずです。材料となる薬草が高価であるので、あまり出回る事はありませんでしたが、一般的に時間のかかる解呪を比較的素早く行う事ができます。しかし、僕はこの秘術を詳しくは知りません。青の秘術書を取り戻さなければ……」

「何だか修羅場の予感、じゃな〜」

アリアリア様は人ごとの様に、ハチミツのクッキーの残りをかじっていた。

もう二度とグラシス家に戻ってくる事は無いだろうと思っていた青の秘術書を、このような形で取り戻そうとするとは思っても見なかったが、僕は覚悟して挑まなければならない。

ヴェローナ家から、我が家のものを返してもらう。
それは別に、家の名誉やプライドを取り戻す為でもなんでもなく、ただただ、この薬を作って助けたい人が居るからだ。

N2229BM-22
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ラストアタック

 タクムとアイはA隊のいる最前線から300メートルほど下がった高台にて出てくる敵を次々に屠っていた。

『狙い、敵軍中央。106ミリ、発射!』
「発射!」
 よく訓練された兵士のようにタクムは応え、106ミリ無反動砲を射出させた。砲弾は見事に敵集団の中央にいた『ジャイアントゴーレム』を直撃する。砲弾はフレシェット弾であり、着弾と共に無数の矢が弾頭から飛び出す仕組みになっている。
 大蟻の内部まで侵入した弾頭が内部で破裂し、強力な装甲を持つ生体兵器を内側から粉砕する。

 背後では旺盛な迫撃砲の射撃音が聞こえていた。放物線を描き、巣の入り口辺りに炸裂した榴弾が出てきたばかりの蟻共の装甲をガリガリと削っていた。

 タクムはブローニングM2を構え、入り口へ向けて一斉射。12.7ミリの大口径ライフル弾が、装甲を削られて弱り切った『アントゴーレム』に次々と止めを刺していった。

 戦車隊による見事な足止めのおかげで前線は安定していた。後方からは次々に迫撃が放たれ、敵を着実に弱らせていく。

 タクムはアイの指示で、動きの弱ったを狙い撃ちにしていた。ラストアタックによる経験値ボーナスが見込めるとのことだった。

 前線を支えるわけでもなく、後方から的確な支援もできるわけではないタクムが、どれだけ戦果を上げバーバリー コート レディース
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られたかを証明するには、これぐらいしか方法がなかったともいえる。
 ダメージディーラといえば聞こえがいいかも知れないが、重戦車や高火力の戦闘車両であるA隊でもそれは可能なことだ。
 この世界では大きい=強いと考えてほぼ間違いない。大きければより強力な兵器を搭載出来るし、銃弾もそれだけ積み込むことが出来る。

 蟻の巣の討伐は、報酬額100万ドルの高額依頼だが、所属する各隊によって振り分けられる金額が異なっている。まず最も危険なA隊の中で全報酬の50%が渡され、その中で等分される。最もダメージを与えられるB隊が40%を受け取り、山分け。C隊は10%という僅かな報酬しか得られない。

 しかもC隊はAB隊に比べて車両数が断トツで多く、過半数である10輌が所属している。何もしなければ2%、僅か2万ドルしか得られない計算となる。

 もちろん、今までのような小さな依頼とは比較にならないほどの額だが、アイの事務能力により、一度の狩りでこれぐらいの金額なら稼ぎ出せるタクム達にはなんとなく物足りなく感じられた。
(無論、巣発見による功績でギルドから特別ボーナスが出たのと、その後の弾薬買占めで得た巨額の資金については既にその存在を忘れている)

 が、巣討伐によって得られる報酬はまだまだ存在する。

 生体兵器のカードと素材である。生体兵器は死ぬとカードを落とし、その際、誰に倒されたかの情報を残してくれる。

 これだけは各自で倒した分だけそれぞれ報酬として分配されることになっている。もしもこれまで山分けなどと言っていたら、C隊の士気が下がりまくって大変なことになっていたはずだ。

 カードの買取額は小蟻が200ドル、大蟻が2000ドルだ。タクムは既に小型を30体以上、中型も4体は仕留めており、総額10万ドル近い相当額の報酬が約束されていた。ちなみに他の隊では倒しても小型10体、中型は1体かか2体といったところなので、タクムの砲手としての資質の高さを示している。

 そもそもノウハウが違うのだ。

 最近は<アリクイ>ことタクム達の活躍により、ガンマの街だけでなく近隣において、蟻素材は常に安定して供給を得られる代物となっていた。
 タクム達は三日一度の出動で平均30体以上のアントゴーレムを狩り、中型も日に一度は倒している。月産では小型300体、中型10体もの蟻型生体兵器を倒していた。それを三ヶ月も続けてきた。

 1000体近い戦闘経験は、もはや対蟻戦の専門家(プロフェッショナル)と言っていいレベルであり、<アリクイ>という二つ名は、ギルドや他の開拓者からの敬意の現れ――派手に稼ぎまくる新参者に対する僻みやからかいの意味も多分に含まれている――でもあった。

 ガンマと周辺の村々を合わせれば開拓者の数は千を超える。千名の供給開拓者ギルドが満たしきれなかった需要を僅か一名で補っている計算になる。むしろ最近は若干、供給過多気味であり、事務官たるアイはしばらく依頼の受諾や素材の売り出しを控えようかとぼやいていたほどである。

 タクムは、どの程度の攻撃を、どのポイントに、どれだけ当てれば殺害できるかが分かってしまっている。最適化された攻撃、圧倒的な戦闘経験によるステータスに上らぬスキルが、火力に勝る古参開拓者達をも上回る速度での殺害(ラストアタック)を可能としていた。

『マスター、次は敵右翼が固まってるよ!』
「了解!」
 タクムはそう言って、再び装填された106ミリ無反動砲を、ブローニングM2を構える。

『ちょ、待って! 攻撃中断! ちゅうだーん!!』
 珍しく慌てたアイの声にタクムは銃撃を中断した。
「なんだ、どうした?」
『上、空を見て』

 抜けるような青、強い日差しに目を焼かれながらタクムは認識する。

 ――ジャイアント、スカイ……。

 太陽光を跳ね返す、銀の外殻。すっと細身のシルエットは蟻というよりも蜂に似ている。戦闘ヘリほどの大きさをしたそれは四枚の羽を瞬かせながら膨らんだ腹部を戦車隊に向けた。

「キシュゥゥゥ――ッ!!」

 ドン、と上空で鈍い音が響き、バスケットボール大の半透明な球体が恐るべき勢いで飛来する。重力の助けを借りて加速しながら逃げ遅れた装甲車のひとつにぶち上がった。

 装甲車の砲塔が消えていた。数リットルという液体が、数トンという巨体を飲み込んでいく。大量の煙、じゅわじゅわと装甲板が丸裸にされていく。

「――ッ!?」
 そこでタクムは見た。

「ぐあッ、ぎゃあぁぁぁぁぁ――ッ」
 見て、しまった。

 生きたまま溶かされていく人間の姿を。髪が解ける、肌が剥がれ、顔を出したピンク色の筋肉組織が蕩けていき、真っ白な骸骨となり、それすらも、消えた。装甲車と人が入り混じった溶解液が地面に広がっていく。

「なんて、威力だ……」
 タクムは戦慄した。いくらなんでも強すぎる。

 ――有り得ないだろ、こんなに勝てるのか!!

 あきらかに蟻酸のほうが容量が少ないというのにその数千倍という体積を持つ、装甲車を丸々一輌溶かし切る。通常では有り得ないことだった。

『大丈夫。多分、彼らの車両には蟻から取れた装甲板を使っていなかったんだ。きちんと対策を取っておけば二、三発直撃したくらいじゃビクともしないよ。ほら、これスペック表』
 恐怖に駆られたタクムに、アイが言った。

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ジャイアントスカイ
蟻型生体兵器の亜種。
サイズこそアントゴーレム程度だが、飛行能力を持つため、移動能力は比較にならない。また地上種と異なり、生体砲弾の口径こそ下がったものの、連射が効くようになり、脅威度が上がっている。
上空から放たれる蟻酸砲弾は危険極まりない。

また全身を覆う白い外殻は、薄く軽量ながらジャイアントゴーレムと同等以上の強度を持つとされており、撃墜は容易ではない。開拓者の中では<爆撃ヘリ>とも呼ばれている。
熟練の戦車乗りですら裸足で逃げ出すほどの強敵であり、その脅威度から特型に認定されている。

脅威度:B
生命力:C
近/中/遠攻撃力:F/B/B
装甲:C
俊敏性:B+
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 タクムは携帯のディスプレイに目を落とす。するとどうだろう、縮こまった心が解けていくのが分かった。

 ――まるでゲームだ。いや、違う。これはゲームなんだ!

 蟻酸など何を恐れることがあろうか。あんなもの屁でもない。

 マイクロ戦車は以前、装甲板の総入れ替えを行ったことがある。使用した金属は文字通り売りに出すほど有り余っているジャイアントゴーレムの外殻だったのである。

 自分の武器で自分を傷つける生物はいない。アント種は体内で蟻酸を体内で生成するため、外殻にも強固な耐酸性能が施されているのだ。

 当然、蟻合金を使った戦車は酸に対して強い。

 タクムが駆る<シーサペント>の装甲板は99%がジャイアントゴーレムの外殻から作られており、他の戦車を圧倒している。いかな特型生体兵器の蟻酸だろうが怖くはない。

「装甲ケチった奴等が悪いって?」
『そうそう、自業自得だよ。だからマスター、やっちゃって』
 おう、とタクムは応えてブローニングM2を構えた。仰角を最大に、上空300メートルの位置でホバリングをしている蟻ヘリに向けて銃撃を放つ。

 その寸前、二本の閃光が重なり合って上空を切り裂いた。

 タクムがその出元を見れば、そこにはコバルトブルーの主力戦車<セリエ・アール>の威容があった。後部に備えた二門のブローニングM2に砲手が張り付いている。

『蟻金属さえ張ってれば大丈夫だ! 装甲に使っているやつは前に出ろ!』
 無線からはデル・ピエロッペンの叱咤の声が響いている。

 ジャイアントスカイは上空で身を捩り、四つの羽を瞬かせ、二本の斜線を巧みに躱していた。空蟻は回避性能が高く、一方向からの攻撃では見切られてしまうようだ。

「アイ!」
『了解だよ』
 マイクロ戦車がドルルルとエンジン音を響かせて、空蟻を挟むようにセリエ・アールと平行に並ぶ。

 ――|十字砲火がジャイアントスカイを打ち据える(ガガガガガガガガガガガガガガガガガ)――

「キシュー!」
 曳光弾の輝きが空蟻の腹部に吸い込まれる。

「クソ! 硬てぇ!」
 ジャイアントスカイは一度高度を下げ、しかし、自由落下の速度を活かして射線から逃れる。その飛行には何の変化もないように見えた。

 どうやら12.7ミリ弾の掃射はジャイアントスカイの装甲を僅かに傷つけるだけに終わったようだ。

『マスター、ハッチの中に!』
 そればかりか、怒りを買ったのか猛烈な砲弾の反撃を受ける羽目になった。
 いかな耐酸装甲とはいえ、生身の体に受ければひとたまりもない。タクムは慌てて車内に飛び込み、舌を鳴らした。

「アイ!!」
『大丈夫、当たらないよ。ちょっと待っててね』
 車体がぐんと傾ぐ。滑らかな四脚の足が大地を噛み、ローラを高速回転させる。背後で砲弾が破裂する音が聞こえてくる。直撃はない。一度に大量の蟻酸を浴びせられなければマイクロ戦車は溶かせない。

 ジャイアントスカイの生体砲弾は小さい分だけ連射が効くようだ。しかし、マイクロ戦車も小さい。アイはランダム軌道でシーサペントをちょこまかと動き回らせて、生体兵器を翻弄する。

『ねえ、君たち? 戦わないなら帰ってくれない? デカイから進路取るのに邪魔なんだけど』
 オープン回線に繋げたアイは、嘲笑混じりのヴォーカロイド声でそう言った。

『その通りだ、てめえら何ぼさっとしてやがる!』
『くそ、負けてたまるか!』
『こんなちんまいのに舐められたままでいられるか!!』
 アイの挑発に、隊長機の罵声に当てられて、崩れかけていた前線が徐々に安定し始める。

 車外カメラの映像には次々に重ライフル弾を浴びせられるジャイアントスカイの姿があった。

 十字砲火どころの話ではない。周囲にいた20輌の戦闘車両が機銃を一斉射したのだ。幾筋もの火線がジャイアントスカイに張り付き、ガリガリと外殻を削っていく。

 何十もの火線が重なり、戦闘ヘリをも撃ち落とす重ライフル弾が空蟻に叩き込まれる。
 
「キシャー!!」
 200発は浴びせただろうが、蟻は未だに空に留まっている。地面に落ちる様子はない。動きこそ鈍ってきたが、銃撃の合間を縫っては生体砲弾を射出する程度には元気だ。

 なんという生命力だ、とタクムは驚きを隠せない。ジャイアントゴーレムであらば既に死に体だろうに、飛行どころか戦闘まで続けている。

 しかし、不思議だった。先ほどタクムはブローニングM2をフルオートで5秒――60発ほどの銃弾を吐き出したわけだが、そのうち命中したのは20発程度であった。

 慣れない対空射撃のために重機の反動で手元が狂ったと言われればそれまでなのだが、タクムの膂力(STR)は既に常人のそれではない。慣れ親しんだブローニングM2の反動を見誤るはずはなかった。

 ならば狙いが悪かったのかと思えば、それはもっと有り得ない。タクムには弾道予測がある。彼はその銃器の有効射程内であればどのような射線でも追うことが出来る。

 60発の内50発は奴の体を捕らえるはずだった。多少避けられたとしても本来であれば今の倍、40発程度は当たっていなければおかしい。

「風か……?」
 あの巨体を持ち上げるのに必要な風力、あるいは揚力はどれほどであろうか。きっとジャイアントスカイの周囲には暴風――12.7ミリ級の重ライフル弾をも吹き飛ばす乱気流が発生しているのだろう。

『ブローニングM2ならただの風なんてものともしないよ。多分、魔法による磁場だろうね』
「魔法ね、」
『うん。だって、あんな巨大な鉄の塊をあんな小さな羽根で飛ばせるなんておかしいと思わない? それにさっきから砲弾出しすぎ。体積の半分以上が蟻酸で出来ていることになるよ』
「じゃあ、あの羽は飛行用ってだけじゃなく、銃弾の方向を狂わせるバリアの役目もあるってことか」
『恐らくね。エアシールドと同じ仕組みだと思う。規模はぜんぜん違うけど』
 エアシールドは自分の周囲に空気の膜を作って、銃弾を逸らしたり、威力を軽減できたりする近接戦闘――CQBスキルだ。タクムの能力ではコルトジュニアやスタームルガーMk1のような護身用の小型拳銃程度しか防げず、9ミリパラベラム弾クラスの大口径の拳銃弾になると弾道を逸らすことも出来ない。防弾服を合わせて使用することで初めて効果が発生するぐらいのものである。

「対応策は?」
 ここらでいい加減、落としておきたい。戦端が開かれてからかれこれ1時間は経っている。銃弾は豊富に用意してきたつもりだが、もう2割を切っていた。他も同じようなものだろう。このまま無駄弾を消費し続ければ最悪、銃弾が尽き、撤退からの壊走などというシナリオも有り得た。

 無抵抗な状態で空飛ぶありんこに追い掛け回されるなんて目も当てられない。

『そうだね、一応、あれも魔法だから同じようにこちらも魔弾で対抗するしかないんじゃないかな?』
 魔弾。弾丸に自らの魔力を与え、属性を変更して撃ち出すという特殊な弾丸のことである。

 実戦で使ったことはない。今まではどんなに硬い敵だろうとブローニングM2とバズーカ砲さえあればなんとかなった。しかし、大型や特型などという化け物相手にするなら、そんなファンタジーめいたものを使わなければ敵わないということだろう。

「わかった、やってみる……何を使えばいい?」
『フレイムランチャーかな。一番SPを使うから、その分、抵抗力もあると思う。迫撃砲かRPG-7で使えるけどどっちにする?』
「RPG-7を使う。こっちはまだ弾が余っているからな」
 タクムの有する兵器の中でも最高の火力を誇る106ミリ無反動砲だが、残弾は3発しかない。撤退や帰路のことを考えると出来るだけ残しておきたかった。

 タクムは砲塔からロケットランチャーを構えた。ブローニングM2の12.7ミリ弾が音速を超えるのに対し、ロケットランチャーは速度面で遥かに劣る。ついでに誘導弾でもないため、飛翔物にぶち当てるのは至難の業だ。

 ――タイミングは敵が動きを止める寸前……狙いは射線を逃れきる少し先……。

「フレイムランチャー」
 しかし、タクムは迷わない。迷えばそれだけ危険が増す。うだうだ迷っているよりは、まずは行動するべきだと判断する。例え避けられたとしても、もう一発撃てばいい。回避や防御はアイに任せておけばいい。

 意識したわけではないが、タクムの脳内ではそのような判断が下されていた。素早い判断力と実行力は現場の兵士に最も必要な能力のひとつであった。

 3ヶ月に及ぶ訓練と延べ60回を超える実戦経験は、戦争素人のタクムを一人前の兵士へと変えていた。それどころかアイ一流による高効率なレベルアップによって、こと能力面だけでいえばタクムは<人類>としての最高到達点に位置している。

 上空へと伸びる幾十という弾道予測線。無数の白線の重なりのなかにある僅かな隙間(エアースポット)。タクムはそのうちのひとつに狙いを定めた。

 空飛ぶ蟻は上空へと飛び上がり、止まり、滑るように真横に逃げる。戦闘ヘリでは有り得ない、垂直角の空中軌道。無数にある隙間は徐々に埋まり、敵の軌道が読めてくる。徐々に隙間の候補が限られていく。

 そうしてタクムが狙いを付けたその場所に、ジャイアントスカイが飛び込んで、

 ――|来た!!!!(ボシュゥゥゥッ)

 反射的にトリガーが引かれ、直後に轟音。

 左から回り込むような軌道を描いた成型炸薬弾が、空蟻の左背部に吸い込まれる。

 真昼の空に二つ目の太陽が生まれる。魔弾によって増幅された爆発。灼熱の業火がジャイアントスカイを包み込む。

「ギッ、ジュワワヮヮヮヮ―!」
 背中の羽をごっそりと奪われた蟻が撃墜される。翅をやられ、ただの小型生体兵器に成り下がったそれを<セリエ・アール>の105ミリ戦車砲が仕留める。

『あぁーッ! やられた!! ラストアタック奪われた!!』
『ははは、悪いな、坊主共! でも、まあ、いいじゃねえか。こいつの素材の2割はお前等のもんだよ』
 アイがオープン回線で叫ぶと、セリエアール車長のデルから通信が返ってくる。

 レイドを組んだ時、その敵を倒す際に最も尽力した者に、LA取得者が報酬の2割を渡すのは慣例になっていることだった。サッカーでFWがゴールを決めたら、スルーパスを出した選手にもアシストが付くのと同じである。

『各車に告ぐ。戦闘終了。作戦は成功だ! 総員、この場で待機。運び屋がこいつ等を引き取りに来るまで戦線を維持! 野郎共、街に帰ったら宴会だ! それまで死ぬ気で気張りやがれ!!』
 わぁっと回線がパンクせんばかりの歓声がタクムのヘッドセットに響き渡る。

「やったな、アイ」
『うん。マスターもお疲れ様。今日のMVPは間違いなくマスターだよ。臨時ボーナス、期待出来るんじゃない?』
 タクムが安堵の声を漏らすと、アイもほっとしたように答えた。

 こうしてガンマの街における蟻の巣殲滅作戦は成功を迎えた、

 ように、

 思えた。


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第一部 3.もつれる感情−3

 ジェニーとケインが出会った日から五日間、冬の小休止に入ったかのように雪が止み、天空から薄日の差し込む爽やかな日が続いていた。冬場に雲の合間から覗く太陽は、それがほんの一時であっても、人々の気分をぐっと高揚させてくれる。空気はきりりと冷たいがどこまでも清らかに澄み、屋内に閉じこもりとなっていた人々が外へ顔を出して、弱々しい光が透ける空を眩しそうに見上げる姿があちこちで見られた。
 少し前まで、しばらく地面を覆っていた雪が溶け、中庭の地肌が顔を出していた。雪と混じって醜い泥地と化した地面を均すため、下働きの男たちが一日がかりで庭内を清掃し、整備した。季節柄、中庭の景色の中に緑が現れることはなかったが、整備されたおかげで全体の見栄えが良くなり、天候の悪い時には閉められているサロンの扉が、久しぶりに開け放たれることになった。 
 サロンが開放されたと教えてくれたのは、意外にも、ジェニーの行動に好意的でないアニーだった。彼女もまた、長く退屈な冬に飽き、たまに訪れる晴れ間を待っていた一人なのだろう。そそくさと支度を済ませ、ジェニーはアニーを伴ってサロンへと駆けつけた。
 戸外とほとんど変わりのないサロンに、先客となる者はいなかった。廊下からサロン内に一歩足を踏み入れたとたん、室内とはあきらかに異なる外気がひんやりとジェニーの頬をなでつけたが、思ったほどに寒くはない。中庭の出入口の両側には彼女も見慣れた衛兵二人が待機していて、屋内からの物音に気づいた彼らがジェニーに振り返り、ほんの一瞬だが、厳しい表情を微かに和ませたように見えた。
 サロンを囲む二方向の壁面の上半分を占める開口部分から、やわらかな黄色の光がサロン内の床に滑り込んできている。開口部の向こうには、冬特有の寂しく殺風景な景色に変わった中庭。ジェニーが壁面により近づいていくと、肌に触れる空気が一段と冷たくなる一ラグビー ラルフ
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方で、目に飛び込んでくる太陽の光がいっそう明るくなってくる。
 くり抜かれた開口部の奥行きの深い縁に両腕を預け、彼女は中庭を縫うように走る細道を目でたどった。雪は一片も残っておらず、濡れて茶色かった地面は既に乾き始めて黄土色だ。
 天候に恵まれて見晴らしが良い場所にいるからだけでなく、数日前のケインとの出会いで今後に希望が見出せたことも手伝って、彼女の気分は晴れやかだった。久しぶりに心の奥が落ち着いていて、口元にまで笑みが自然に浮かんでくる。
 中庭の真ん中にある木に視線を移したジェニーは、その先の細道を歩いてやって来る男に気がついた。衛兵や使用人の服装とは違う。木を通り過ぎたあたりで彼は足を止め、目の上に手をかざして空を仰ぎ見ている。
 目を凝らして男をよく見てみた彼女は、あっ、と小さく声をあげた。ここで会うのは数度目になる、サンジェルマンだった。

 東館の二階にある一室から中庭を何気なく見下ろしたゴーティスは、後宮に面する一角によく見慣れた男の小さな頭を見つけ、訝しげに見直した。彼は後宮に付帯するサロンの方に向いて立っており、表情は彼の方角からではしっかりと見えないが、頷いているように頭を数度、上下に振っている。
 あの男、あんな場所で何を?
「王? あの、お手を少し上げて――」彼は春用の上着のために採寸している最中だったので、担当者の注意を促す声で室内に視線を引き戻した。
「わかった」
 しかし、返事とは裏腹に視線はまた中庭に舞い戻る。後宮のサロンは久しぶりに開放されていて、出入口には二人の衛兵が構えている。サンジェルマンの横顔を見ると、彼は顔を下に向け、笑っているようにも見えた。
 当初、サンジェルマンが衛兵のどちらかと会話をしていると思ったのだが、ゴーティスの眺めている先で、サロンの開口部から女の腕が外に伸び、身体を中庭の方へ乗り出す若い娘の姿が映った。その隣に中年の女が寄ってきて何かを言っている。娘の行動をたしなめているようにも見えた。あんな子どもっぽい行動をとるのは、後宮ではジェニーぐらいなものだろう。
 彼女の幼稚さを蔑視する一方で、彼女に警戒心を起こさせないゆえにその率直な反応を引き出したサンジェルマンに対し、怒りともつかない不愉快な感情が芽生えてくる。
 ジェニーが顔を空に向け――ゴーティスの方向からは、今までに見たこともないような彼女の明るい笑顔が見えた。
 彼は、ジェニーの泣くか怒るかの表情しか目にしたことはない。彼女の、あまりに屈託なく、幸せそうな笑顔に彼は面食らった。 
 あんな顔をして笑うのか……。
 彼がそれを初めて見たというだけなのだが、ジェニーが笑う姿は、意外なほどに彼に強烈な衝撃を与えていた。
 サンジェルマンに視線を移動すると、彼は腕組みをし、まるで全身で笑っているかのように肩をゆすっている。実際の声は届かなかったが、二人が笑い合う高らかな声が絡み合いながら、耳に入ってくるような気がした。
「王、あの……恐れ入りますが」
 いつのまにか窓辺に移動してしまっていたゴーティスは、後方から掛けられた女の声で我に返った。
「もう少々で終わりますので」
 彼は無意識に彼らに気をとられてしまっていたことに驚き、自分を情けなく感じて心の中で自分自身に悪態をついた。実体のない二人の笑い声が、今もまだ耳の奥で反響している。
「わかっておる。続けろ」
 ゴーティスは憮然として女を見つめ返し、窓辺から体を離した。

 一週間ぶりに、夜更けを過ぎた城内にちらちらと雪が降り出していた。サンジェルマンは自室の寝台に腰をかけ、部下が手を尽くして探し出したジェニーの短剣を手に取り、じっくりと眺めていた。
 やはり、古い物だ。
 それは、ジェニーを地方で拘束した日に彼女から奪い、その後、行方知れずとなっていたもの。今日の夕方、どこかに紛れこんでいたそれを、彼は家来から受け取ったばかりだ。刃先はきちんとした手入れがされて光り輝いているものの、鞘や柄の色が鈍くくすんでいる。長年の使用のせいか、持ち手の柄に彫られた意匠の突出部分が使用者たちの手の脂によって金色に変色し、磨り減っていた。
 それでも、彫られている模様自体は目視でちゃんと確認できる状態だ。二十の輪に螺旋状に蔦が巻きつき、交差した二本の剣がその輪の中に描かれている。どこかで見かけた紋章の図柄であるのは確かだ。しかも、サンジェルマンが見覚えのあるものということは、第三貴族など下等貴族のものではないことを意味している。それを踏まえると、ジェニーという一介の娘の身元は、ますます謎に満ちてくる。
 剣の扱いを知り、遠国ユートリアの言葉など四カ国語を操り、庶民ながら文字の読み書きができ、ある一定の薬剤知識を併せ持つ。彼女の口から、彼女たちは風変わりな一家で各地を転々と移動していたとも聞いた。もしかしたら、彼女の親はどこかの国の間者だった、という可能性もある。
 あれこれと考えを廻らせていたサンジェルマンは、彼女の素性に対して不必要なほどにこだわっている自分にふと気がつき、ため息をついた。詳しい調査など必要ないのだ。王から素性を洗うようにと命じられているわけではない。
 サンジェルマンが彼女の素性を探ろうと接触を重ねるうち、彼女の真の素性はまだはっきりしなかったが、わかったことがある。それは、彼女の裏表のない真っ向さと情の厚さだ。その両方に欠ける世界でもある貴族社会に生きているために、彼女は受け入れられず、問題視されているはずだ。そして、その性質があるゆえに、王への嫌悪と憎悪を露わにし、自分の使用人に親切に接し、 “同郷”のサンジェルマンの体を心配する。
 ゴーティス王に対する非礼の数々を思えば、サンジェルマンは、ジェニーをどうやっても好意的に受け入れられるはずはなかった。彼女への不信感はあいかわらず抱いており、彼女が王の所属であるという立場上、彼は一定の距離を置いて彼女に接している。
 それなのに、何とも自分で納得がいかないのだが、彼はジェニーに対し、ある種の好感と信頼の念が生まれているのを自覚している。それに、これもまた意外なことに、ジェニーも王の部下であるサンジェルマンに意識下で必死に抵抗していたようだが、彼同様、彼女の側でも同じような状況が起こっているようなのだ。彼女が彼に接する空気から漠然と感じられるだけだが、二人の間には、不思議な信頼に基づいた、淡い友情関係が築かれつつあった。
 サンジェルマンは部屋の隅にある台に短剣を置きに行くと、壁際にある椅子の上に座って靴を脱いだ。室内にいても寒さは感じていなかったが、素足になると、足を伝わって寒気が身体を上ってくる。彼は寝台に戻り、寝具の内側に体を滑り込ませた。

 次の日の朝、サンジェルマンは、光のあまり入らない執務室で女官長や長官と並び、王の予定確認に立ち会っていた。昨夜遅くから降り始めた雪はサンジェルマンが起床する前には止んでいたが、その代わりに気温が低いままに留まって、外は随分と冷え込んでいた。
 ゴーティス王が女官長に、後宮のサロンはもう閉めたのかと訊ねた時、サンジェルマンは視線を床に向けていて、王の表情は見えていなかった。質問を受けた女官長が、サロンは今朝早くに再び閉められたと返答するのを耳にして、これでまた当分の間は閉められたままだろう、と彼はサロンの佇まいをぼんやりと胸に思い描いていた。
「――サンジェルマン。二、三日前、おまえが中庭におるのを見たぞ」
 突然に話を振られ、彼は顔を上げた。彼と目が合うと、王が自嘲的に微笑んだ。
「サロンの近くだ。あそこで、何をしておった?」
 女官長や長官が咎めるような目つきでサンジェルマンに視線を注ぐ。彼は王の問いが二人と同じ想像に基づくものと悟り、つとめてさりげない口調で王に事実を告げた。
「ジェニー嬢と話をしておりました。彼女の事で気になる点があったので、それを確認していたのです」
「気になる点だと?」
 王が疑わしそうに両目を細めてサンジェルマンを見返した。「どんな事だ?」
「彼女はユートリア語を操るのです。その語圏に住んだこともなく親の出身地でもないのに、どういった経緯で習得したのかと思いまして」
「ほう、あんな最果ての国の言葉を知っておると? あの娘は思いがけずに才女だな。だが、それをあの娘がしゃべるとして、それほど重要視することでもなかろう。なにゆえ、おまえが気にする必要がある?」
「いえ、私はただ、彼女の素性が少しでも判明する手立てになればと思ったのですが」
 王がせせら笑うように鼻を鳴らした。
「ご苦労なことだ。それで、わかったのか?」
「いいえ。両親が博識で数ヶ国語を話し、ユートリア語は母親から習ったというのは聞きましたが、今のところ、わかりません」
「ふん。そうであろう」
 王はサンジェルマンの返答を聞き、あざ笑うかのように冷たく言い放った。
「されど、あの娘がよくぞ、そんな話をおまえにしたな」
「ええ――」彼が王を見返すと、王は口角を下げ、鋭い眼差しを窓の方に向けていた。「ええ。――それはきっと、私が彼女の住んでいた土地ベルアン・ビルの出身者と聞き、同郷者のよしみで口が軽くなったのでしょう」
「――は? 何だと!?」王の視線がはっと戻ってきて、瞳が生き生きと輝き出した。「おまえが、何処の出身者だと? 生まれも育ちもヴィレールで、国外に出たことのない生粋のヴィレール人であるおまえが何を言う!」
 王の態度がそれまでと一転し、肩をゆすって笑い出した。
「おまえ、あの娘に嘘をついたのか! なんと、嘘など一つもつきそうに見えぬ、誠実そうなおまえが、あの小娘をそうも簡単に騙したとは! 何とも腹黒い様ではないか!」
「――必要な嘘でしたゆえ。ですから……私は国外に住んだことのある男として、彼女の前ではそうご承知おきください」
 王はそれを聞き、さらに皮肉げに笑い続けた。

 しばらくして、笑いすぎて目じりからあふれた涙を指でぬぐいながら、王が言った。
「あの娘も愚かなものよ、おまえの嘘にまんまと騙されおって。それなりに、おまえにも心を許したのであろうに」
「それはそうでしょうが――」サンジェルマンが決まり悪そうに微笑むと、王の笑いがぴたりと止んだ。
「……なるほど、どうやら、おまえはジェニーを気に入っておるらしいな。そうでなくば、どうでもよい者の身元調査になど、忙しい時間を割くおまえではない」
「――王、何を? 私は、彼女に対してそのような情など一握も持っておりませんよ?」
「おお、よい、よいのだ、気にするな。義理堅いおまえのこと、俺に遠慮して、娘の手さえ握っておらぬのだろう?」
「なんという畏れ多いこと! そのようなこと、まったくの誤解でございます! ああ、王! どうかお許し下さい、私のとった行動はなんと身勝手で軽率だったのでしょう! 私に他意はなかったのですが、誤解されて当然の――」
「ふん。おまえこそ、自分の心を誤解してはおらぬか? 俺は、おまえを責めておるのではない。それに……あの娘も俺よりはおまえの方を好むと思うがな」
「お戯れを!」
 展開を恐々と見守っていた女官長や長官が身を固くして、サンジェルマンを非難するように見つめている。王は面白そうに笑うだけだ。
「主人が部下に女を払い下げることは、よくある話だ。俺はあの娘をおまえにくれてやってもよいぞ」
「ああ、どうか、王! 私はあの娘に特別な気を掛けてはおりません! たとえ王がそういった心づもりでおられたとしても、王の目にとまった方をお相手するなど、私には畏れ多くてできかねます!」
 サンジェルマンが珍しく語気を荒げて反論すると、それまで面白そうに語っていた王が彼にくるりと背を向けた。王はしばらく無言で、壁に顔を向けたままだった。
「王」
 肩にどっと疲れを感じながら、サンジェルマンは彼の背中に向かって呼びかけた。
「王、彼女には……暇を出されるおつもりです?」
 サンジェルマンの質問は、女官長たちの注意も必然的に引いた。王は顎を上げて上方を一、二秒見た後、静かに振り返ってサンジェルマンを見据えた。そして、にこりともせずに答える。
「さあて。……まあ、なかなかに良い退屈しのぎにはなっておる」
「そうですか。では、後宮より退かせなくともよさそうですね」
 王は少し考えるような姿勢をとり、探るようにサンジェルマンの瞳を見つめた。
「――退城させたら、おまえが身請けでもするか?」
「私が? いいえ、まさか! そのつもりはございません!」
 肯定すれば彼のジェニーに対する好意を認めることになる。
 サンジェルマンは王の問いにたじろいだのは確かだったが、意図的にきっぱりと否定をした。王の目の中にある不信の曇りが、サンジェルマンの返事で少し薄くなったようにも見えた。
 微妙に強張っていた王の顎が小さく弛み、彼はまたサンジェルマンにゆっくりと背を向けた。

◇  ◇

 冬の真っ只中に差し掛かる頃から、どういった心境の変化か、ゴーティス王が週におよそ一度の頻度でジェニーの部屋に訪れるようになっていた。それも、最近は夜だけでなく、午前や夕方の中途半端な時間帯に顔をのぞかせる時まである。そんな場合は大抵、極めて多忙だと自ら口にするゴーティス王はほんの三十分も彼女の部屋に滞在はしない。
 ジェニーの部屋にやって来ると、王は彼女を怒らすような失礼な発言や行為を故意に繰返しては、彼女がかっとなって反論したり反抗したりするのを面白そうに眺めているのがほとんどだ。それは侍女や召使の恐怖や動揺を引き起こしはするが、彼がジェニーの言動で腹を立てる様子も見られないし、彼女が彼にキスされることも、抱擁されることもない。そして、一通り気が済むと、怒りのおさまらないジェニーを部屋に残し、彼はさっさと一人で去っていく。特に何をしたわけでもないのに、彼は概ね満足そうだ。
 ジェニーには彼の真意がわからない。毎回、彼の訪問を受ける度に戸惑うばかりだ。
 そういった環境の変化もあり、ジェニーがケインと地下牢で出会って以来、彼女が地下にたどる道に降りる機会はなかなか作れなかった。それに、ケインが彼女の部屋に再び姿を見せることもなく――いや、彼がジェニーの部屋に通じる入口まで上ってきたことはあって、たまたま彼女が城内を探索していて留守だったか、彼女が階段の最上部に置いた“取り込み中”の注意書きの板を見て仕方なく引き返していったか、実際はそのどちらかなのかもしれないが。
 とにかく、彼女はケインとの再会を果たすこともないまま、いつのまにか冬の終わりを迎えてしまった。そしてその頃には、王の頻繁な訪問を伝え知った召使や後宮に務める使用人たちが彼女に対する態度を改め、丁寧なものに移り変わってきていた。ただでさえ、王と接する回数が増えるにつれて心身に疲労を感じているというのに、人々の慇懃な対応は、ジェニーを自分が自分でないような気に陥らせ、辟易とさせる。

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メートル程行ったところにだ。丁度アイスクリーム屋の看板があった。千春はその看板を指差しながらそのうえでだ。希望に言ったのだった。
「ほら。あそこにね」
「あいつ等が行った店かな」
 店の少し先に歩道橋がある。希望はそれも見ながら察した。
「あそこでね」
「アイスクリームを買って」
「そう。四段でトッピングもたっぷり使ったのをね」
「千春達で食べて」
「幸せになろう」
 そうしてだというのだ。アイスを食べてだ。
「そうなろうね」
「うん。それじゃあね」
 こうしてだった。二人でその店に入ってだ。実際にそうしたアイスを注文して食べたのだった。すると本当に幸せになれた。彼等よりもそれを感じられた。第八話 友情もその十

「そのつもりはないよ」
「そうよね。だったらね」
「幸せになればいいんだ」
「そう。そうなモンクレール ダウン 2013
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ればいいんだよ」
「僕があいつ等よりも幸せになれば」
「希望はあの人達に不幸にされたんだよね」
「うん」
 小さいが確かな声でだ。希望は千春に答えた。
「そうだよ。酷い目に遭わされたよ」
「じゃああの人達よりももっとね」
「幸せになることがあいつ等への仕返しになるんだ」
「恨みを晴らしても何にもならないよ」 
 千春は復讐を否定した。それはだ。
「けれどね。幸せになればね」
「僕自身が嬉しくなるよね」
「だから。幸せになろう」
 これが千春の言葉だった。
「そうなろう。あの人達よりもずっとね」
「そうだね。じゃあ」
「今は二人でデートしよう」
 その希望に笑顔を

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るとまだまだ話しは尽きないように思える。
それだけ、ふたりの出会いは、互いに印象に残るものだったのだろう。

「良いの???。」
ママは、源次郎の小銭入れに向かって掌を広げる。代金を受け取るつもりはないとの意思表示だ。

「ママ、ご馳走様???。」
美由紀はそう言って腰を上げる。
その時、意識してなのだろう。美由紀は源次郎の腕に縋るようにした。

「くぅ~???。」
ママが唸るように言った。カウンターの向こう側でだ。

「ん?」
立ち上がった美由紀がママの顔を見る。

「ミッキーって、憎たらしいほど色っぽくなったわねぇ~???。
今の立ち上がり方なんて???、普通の男が見たら、鼻血を出してひっくり返ってるわ。
「も、もう???、ママったら???。」
美由紀は言われティンバーランド アウトレット
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ている意味が分かるのだろう。スカートの裾にそっと手をやった。

「舞台に立つようになったからなの? だったら、私も出ようかしら???。」
「そ、そうね???、一度、支配人に頼んでみたら?」
「だ、駄目よ、甲ちゃんったら、私のことを“お化け”って言うんだから???。」
「うふっ! ??????。」
美由紀は、その最後で、源次郎の手をきゅっと握ってくる。
何かの合図なのだろうと源次郎は思った。

「じゃあ???。」
源次郎が美由紀の手を引くようにして出口へと向かう。

「ママ、一度、劇場にも遊びに来てよ???。」
美由紀は源次郎の後ろを歩きながら言う。

「い、嫌よ! もうこれ以上嫉妬したくないし???。」
ママは、カウンターを回るようにしながらそう答えてくる。
どうやら、源次郎達を見送ってくれるようだ。


(つづく)



第2話 夢は屯(たむろ)する (そ

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?

(ふぅ~???。どうやら、大丈夫のようだな???。)
源次郎は、美由紀の雰囲気から、そう思った。
まるで命拾いをしたような安堵感すら沸き立ってくる。

と、ところが???、である。


(つづく)



第2話 夢は屯(たむろ)する (その1003)

一呼吸置いた源次郎は、ようやく次のステップを考える。
で、真っ先に思い浮かんだのが、膝頭に触れているものの取り扱いである。


先ほど、故意ではないものの、源次郎は美由紀の股間を蹴った。
もちろん、それほど強くにではないし、蹴るつもりも無かった。
美由紀が、揃えていた時計 ブランド
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両脚を身体を捻るようにして開いたからだった。
それで、偶然、源次郎の膝が美由紀の両脚の間に入り込んだ。
そこに、たまたま美由紀の股間があった。
ただ、それだけのことである。

それでも、美由紀もその両脚を元に戻そうとはしないし、源次郎だって、一旦割り込んだ膝を改めて抜くこともできない。
却って変な動きになると思うからだ。


(さて、???どうするか?)

いつもならば、こうした姿勢になることはなかった。
何とも中途半端なのだ。

美由紀は、セックスをする際、基本的には自分から積極的に動いてくる。
要は、源次郎に主導権を渡さない。
自らのしたいように仕掛けてくる。
キスだってそうだし、俗に言う愛撫だってそうだ。
自分がしたいときに、自分がしたいタイミングで、自分のしたいことをするし、また、させてくる。
そして、最後の挿入だって???。
だから、片膝だけが美由紀の両脚の間に入っているなどという中途半端な姿勢になったことはなかった。


源次郎も、最初は驚いた。
こうも積極的に動く

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第二十話 人怪その十一

「豆腐にしろな」
「豆腐の菓子もいいのう」
 博士はそちらにも理解を示すのだった。
「大豆はよい。あっさりしていて何でも使える」
「その通りだ」
 牧村はここでも彼に頷く。
「何をしても駄目だという食べ物はない。子供達が食べるのが嫌いなら別の料理を出してみてそれで食べさせてみるのもいいことだ」
「ホウレン草のジュースもいいよね」
「ヘルシーヘルシー」
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「缶詰は見たことなかったけれど」
 妖怪達は今度はホウレン草について話していく。
「あれってポパイだけなのかな」
「僕あれ見てホウレン草食べはじめたけれど」
「僕も」
 意外とミーハーでかつホウレン草を食べはじめたのも早い妖怪達である。
「缶詰はなかったんだね」
「あれ食べたらあんなに強くなれるって思ったけれど」
「胡瓜は元から好きだったけれどね」
 これは河童の言葉である。
「あんな美味しいのが嫌いな人ってやっぱりいるのかな」
「いる」
 その河童の問いにはっきりと答える牧村だった。
「好き嫌いは色々だ。そして誰にでもあるものだ」
「わからないなあ。それが」
 河童にとってはどうしても、というものだった。
「あんなに美味しいものなのにね」
「河童君はあと西瓜好きだよね」
「それに茄子も」
「うん、好きだよ」
 仲間の妖怪達の問いににこにこと笑って答える河童であった。
「全体的にね。あっさりとしたお野菜が好きだよ」
「じゃあトマトなんかも?」ヴィトン
「そっちも好きなのかな」
「プチトマトもいいね」
 やはりであった。そうした水っぽいものが好きだというのもよくわかることだった。やはりそれは彼が他ならぬ河童だからであった。
「折角だから皆で食べればいいんだよ」
「けれど人参のケーキも食べるんだね、そっちも」
「お酒も」
「好き嫌いはないから」
 こうも答える河童であった。
「基本的にね。お肉はあまり食べないかもだけれど」
「お魚は好きだよね、それでも」
「それも川魚が」
 この辺りは流石に河童だと思わせるものがある。そんな話をしながら皆で牧村の作った人参のケーキを楽しむ。それが終わるとそのままそれぞれの遊びに入るのだった。
 牧村は遊びに入らずそのまま大学の講義に戻った。その後はいつも通りトレーニングを行った。そしてそのトレーニングのメニューを全てこなしシャワーを浴びてサイドカーの前に来たところで。彼の目の前に一人の男が静かに立っていた。
「貴様か」
「そうだ。私だ」
 紳士であった。いつものタキシード姿でそこに立っているのだった。
「暫くぶりだな」
「この前の闘いのことでか」
「そうだ。それもある」
「それも?」
 牧村は紳士のその言葉に反応を見せた。
「それもとはどういうことだ?」
「一つ話がしたい」
 紳士の言葉はここでその調子を変えてきた。
「それでいいか」
「話をしたいというのか」
 牧村は紳士がこう言ってきたので目の光も変えてみせた。それまでの警戒するものを全面に出したものではなくしてきたのである。
「俺とか」
「ワインの美味い店を見つけた」
 紳士はこうも言ってきた。
「それでいいか」
「悪いが酒は飲まない」
 牧村はそれは断ったのだった。
「酒はな」
「そうか。不調法か」
「体質がそうなっている」
 このことは隠さなかった。別に言ったところでどうこうなるものではない、魔物に対して酒が飲めないことがわかってもどうということはないのだから。

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第八話 芳香その十

「わかった」
「わかってくれたか」
「今はあの連中を避けるとしよう」
「果たして今君に向かって来るかどうかもわからんがな」
「敵は弱いうちに叩く」
 一つの定理を述べる牧村だった。
「違うのか」
「本来はそうじゃがな。魔物の考えはわし等と多分に違うところがあるのでな」
「その通りだよ」
「そこはね」
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 ここで横からまた妖怪達が声をあげてきた。そうして牧村に対して言うのであった。
「僕達は一番大事にするのは楽しみだから」
「だから闘いとなればね」
「楽しみを優先させるのか」
「そういうこと。魔物って強い奴と闘うのが好きだからね」
「何で闘うのが好きなのかは理解できないけれど」
 だが楽しみを優先させるというのは理解できるというのだ。この辺りは人ならざる存在としてわかるようだ。妖怪と魔物を分けるものはその考え方だけだからということもあるのだろう。
「まあそれでもね」
「連中の考えはわかるから」
「魔神でも」
「では。今は奴等は俺には向かっては来ない」
「進んで勝ち目のない闘いをすることもないぞ」
 また言ってきた博士だった。
「わかったな。それは」
「わかった。それではだ」
 博士の言葉に対して頷く牧村だった。
「連中については避けるということだな」
「そうしてくれ。それでじゃ」
「ああ」
「また魔物と闘ったようじゃな」
 話はそこに移った。先のナックラ=ビーとの闘いのことだった。このことは妖怪達に話していたがそれが博士の耳にも入ったのである。
「地下の駐車場での闘いじゃったか」
「力の強い相手だった」
 ナックラ=ビーのあの怪力を思い出しての言葉だった。
「攻撃を受け続けていれば。俺が負けていた」
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 牧村に事実を告げた博士であった。
「そうじゃな」
「ああ」
 このことには静かに頷いてみせた。目の光は強いが。
「その通りだ」
「闘いは力や技だけではない」
「素早さだけでもないな」
 あの時彼は大天使としての機動力を使って勝った。しかしそれが最大の勝因になったのではなかったのだ。最大の勝因とは何であったか。その話だった。
「あの時は」
「頭じゃよ」
 穏やかな笑みを浮かべて言う博士だった。
「それが一番頼りになるものじゃて」
「俺もあの時は考えた」
 考え素早く決断を下して闘った結果の勝利なのだ。
「そしてその結果だ」
「それがよかったのじゃ。闘いは気付くことじゃよ」
「気付くことか」
「相手の何かに気付きそこを衝く」
 こう言うのである。
「それなのじゃよ」
「俺はそれができているのか」
「聞けばもうできておる」
 博士は客観的な様子で述べた。
「既にな」
「だといいのだがな」
「そういうことじゃよ。とにかくじゃ」
 博士はまた牧村に言ってきた。
「今のまま鍛錬し勝ち抜いていくのじゃな」
「それか」
「左様。どちらにしろ魔物は出て来る」
 まるで石が道に転がっているのを見るような言葉であった。
「ならばじゃ。それを相手にしていけばな」
「それだけでいいか」
「そういうことじゃ。さて」
 ここで話を止めてきた。

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